・僕ノ夢日記・

  壱 - 僕の人並日記 -


 なもなにい くかうん
 でも なかあにった が よく わなからい
 あかたたい きしがた それにぼくは 手を伸ばした。
 あぁなんだこれ。柔らかい。言い例えるなら時速百キロのスピードで手を外に出しているような、
「何してんのよっ」
「っぁっっっ……?!」
 何かがドスッと、綺麗に鳩尾に入ってきた。僕は現実に戻される。
 殴られた理由をつかむのに少々時間がかかった。それは僕は寝ぼけながら、右隣の女子の胸をぐぁしっと掴んでいたのだ。それも身体を捩じらせて、相手は右にいるのに左手で。だから鳩尾が狙って下さいとばかりにがら空きだったのだ。僕は左手を引っ込め、蹲っていた体勢からより蹲る。
「ね、消しゴムかして」
 罪悪感と言われると否定したいが、そんな気持ちで消しゴムを差し出す。お礼を言われた気もするが耳に入って来ず、腹の痛みもすぐ忘れて再び現から離れていった。
「また寝るの? よくそんな――――」そこで言葉は途切れていた。
   リンゴーン リンゴーン
 チャイムが鳴る。それでパッチリ目を覚ました。毎度聞きなれた音だが、これを聞くと眠気が吹っ飛んでしまう。家の目覚まし時計の音は聞きなれて効果がないのに、これの目覚まし効果はずば抜けている。
「ちょっと」さてお昼だ。今日はどう過ごそう。
「ちょっと」うちの学食は豪華なんだけど、それ故学食にあるまじき価格だ。誰向けに設けられているのか分からない。
「聞こえないの?」素直に購買部でサンドイッチの方が無難かな。
都々木つづき!」
「最初から名前で呼んでください。なんでしょうか?」この教室で彼女らが『ちょっと』で呼ぶのは僕に対してだけだが、何かの間違いだという毎度の願いは空しく終わる。
 この学校で友達はいない。その原因は僕の人間性以外にちゃんとある。それはこのクラスが四〇人中男が二人という、聞いただけでは何とも天国のような場所だからだ。そんな状況なのは勿論このクラスだけではない。全クラスそんな感じだ。元々女子校だったが去年共学になったばかりというのが理由か。
「生意気な口きくわね、都々木のくせに」理不尽な言いがかりだが、この世界ではそれが通る。学園とは恐ろしい世界だ。
「まぁいいわ。今日はがいないことだし、私達とを楽しみましょうよ」その瞬間、発言者だけでなくその取り巻きも不敵な笑みを浮かべる。僕に拒否権は与えられることなく、着かず離れず、腕を引っ張られているわけでなし、首輪を着けられているわけでもないのに、僕は彼女らについていく。勿論ランチってわけがない。一人の女子が持っている妙な長さのバックにお弁当が入っているなどとは考えられない。彼女らは、自分たちより下の存在が必要なのだ。

 罵りの言葉が聞こえる。鋭い音も聞こえる。鈍い音も聞こえる。兎に角、痛い。
「キャハハハハハ、ねぇ見てよ見て、私らに痛めつけられておっ立ててるぅ」
「なにこれでっかーい、気持ち悪ぅ。あんたの彼氏よりでかいんじゃないの?」
「彼氏のは剥けてるし。だいたいこんなゴミと比べないでよ。あたしとこいつが同じ人種なわけないじゃない!」
「それもそうねぇ。ゴミはゴミらしくゴミの中にでも突っ込んでな! アハハハハハ!!」様々な嘲笑が聞こえる。その後に一発鋭い音。乗馬鞭なら、見つかっても言い訳は出来る。事実このメンバーの中の二人が馬術部。だけど鞭の数はメンバーと同じ、七本。
 彼女らは顔は狙わない。そして手や腕、膝より下など、露出の恐れがある場所は絶対に叩かない。バレるからだ。それは教師や周りの生徒にではなく、『お嬢様』に。叩き方も心得ている。ただ力任せに叩いては皮膚が裂けて血が噴き出てしまうが、彼女らの叩き方では血は出ない。ただ蚯蚓腫れが出来るのみ。自分たちの都合のためなら、その謎の努力は惜しまない。
「そろそろ時間ね。早く服着なさいよ」終わりはあっけない。時間がくれば乗馬鞭を馬術部の人間に渡し、僕に嵌めていた手錠を外す。そして脱がされた制服を投げ渡される。これもばれないように、服を汚されるようなことはない。
 戻れば五時間目の授業が始まろうとしていた。今日もまたお昼ご飯は抜きになった。実は、今日ぐらいは、学食で食べてもいいかなと思っていた。

「ね、また消しゴムかして」隣の女子の頼みは今日で二回目だった。胃がキュウッとなった僕は一つ知恵を働かせた。
「はい。あげる」カッターで消しゴムを半分こにした。これで僕の睡眠を邪魔されることはないだろう。
「……」それなのに、あぁそれなのに、彼女は何故かブスっとした。たぶん、「私があんたの消しゴムを触るのがそんなに嫌なの?!」とか思ってしまったかも知れない。多分そうだ。でも気にしないことにした。

 夢など、なかなか見られるものではない。それもこう公の場での居眠りは、浅い眠りのくせに夢を見させない。無意識に緊張している所為かも知れない。でも過去の友人は落ちて行く夢を見たらしい。彼が起きる切っ掛けは椅子から転げ落ちた事だった。
 寒気がする。寝起きにはクーラーの効いた教室は寒い。薄手とはいえ夏でも長袖の制服なのに、足りないくらい。寝起きと言えばもう一つ、腹に空気が溜まる。胃に違和感を覚えつつ今日の授業を終えた。帰り支度をして学校を出ようとする。
   てん、てんてんてんてんてててんてん……
 お琴の音色が聞こえた。『六段の調』だったか、料亭などでは定番の曲だ。僕は部活棟を通って下駄箱に向かうことにした。こう、たまに道を変えたくなる事、あるじゃないか。
 だんだんとお琴の音色は大きく聞こえてきた。そしてある教室の前に来た瞬間、僕は一人の女子と、一人の部外者の姿を目撃する。
「ちょっと」あの時と同じ呼ばれ方。でも、発言者は別の人間だ。
「何でしょうか、お嬢様」今度は素直に、呼びかけに応じる。声の主は、お琴を弾いている一人の女子だった。一人の部外者は、僕を怪訝そうに見つめている。

 部活は殆ど女子向けばかり。当たり前だ。男子は僕含め全体で廿人もいない。だからその廿人弱が集って一つの部活に専念しない限り、立ち上がることも存続していくこともないだろう。事実、過去に男子部も立ち上がった事はあったが、人数は最低ラインの五人。内二人は幽霊部員。顧問まで幽霊顧問。そして部費は無いに等しく、その部は軽音楽部だったが事実的なバンド部で、女子軽音楽部からも敬遠されていたため何処からかの圧力で消滅した。だから現在男子は全員帰宅部だ。ただサークルまがい程度なら存在するらしい。興味がないからどんなものか知らないけど。
 上記で『軽音楽部』とまとめたけど、何も音楽関係はその部だけではなく、楽器によっても部活が存在したりもする。お琴もそれの一つで、ちゃんと存在するし部員も廿人強と男子生徒数よりも多いのだが、彼女はいつも独りで練習していた。それも顧問は、この学校の教師ではなく彼女が呼んだ特別講師だ。
「ちょっと来なさい」そんな彼女に僕は呼び止められた。学園のお嬢様に特別個人講師という独特の背徳的空間に、襟裏の白い部分も外していない真っ当な僕は入るのに少し抵抗しつつ、お嬢様なのだから仕方がないと、理由にならない理由で自分を納得させた。
「貴方、幼いころからお琴を習っていたのでしょう?」
「はい。中学の時にやめてしまいましたが」理由は、友人と遊ぶ時間が欲しいから……だったが、蓋を開けてみれば僕に友人などいなかった。あったのは僕と言う、都合のいい玩具だ。
「ではもうおやりにならない?」彼女の切れ長の目が、一際鋭くなった。前髪ぱっつんサラサラロングで、一人だけ改造制服で、学園を自由に取り仕切る彼女からの、意外なほど普通の疑問に僕はどう答えようか迷ってしまった。
「……何も考えてないです。それが、どうかしました?」
「男子部員を求めているの。十七弦の男性奏者が欲しいと思っていてね」お誘いですか。でも、
「僕十三弦しかやったことないですから、ちょっとお答えできませんねぇ」
「練習すればいいでしょう。触ったこともない人間よりは役に立つのじゃなくて?」そんなこと言われてもね……。
「何? 私の言うことがお引受け出来ないと?」途端、身体が強張るのが分かった。
 別に怒鳴られたわけじゃない。声色を変えられたわけでもない。表情を変えられたわけでもない。個人講師が何かしたわけでもない。催眠術……そう、催眠術にでも掛けられていたかのように、彼女の言葉で僕の思考は一つの答えでした。断る理由なんてないじゃないか。
「女性講師の方がよいでしょう? 明日また此処へ来なさい。いいですわね?」頷く。即。
 それっきり彼女はまた弾き始めた。これは確か……吉松隆の曲じゃなかっただろうか。六段の調くらいは僕が小学校低学年の時には弾いていたぐらい基礎みたいな曲だから、さっきのはウォーミングアップみたいなものだったのだろう。
 お前など此処には存在しない……そういうかのように、僕には声をかけることも視線を向けることも、彼女はしなくなった。個人講師はハナから僕に関心などない。そもそも、彼女に必要なのだろうか? 見ている限りでは、指導しているように見えない。
 ……僕は下駄箱に向かいながら、喉の渇きを感じていた。帰りに、喫茶店でも寄ろうか。ついでにそこで宿題を済ませてしまおう。
 彼女は吉松隆を弾いていた。あの曲は大人数で演奏するのに適している。それも力強い曲なので、十七弦に男性が欲しいというのは曲を完成する上で納得出来る。では何故僕なのか。そんなもの考えずとも分かる。まず男子生徒は限られていて、その中で琴経験者は僕だけ。だったら実力はどうであれ僕をスカウトするだろう。彼女は生徒でありながらこの学園を取り仕切ることが出来るぐらいの権力者。こんな僕に個人講師の用意ぐらい容易いものなのだ。それと、僕は彼女のだ。
 ……行きつけの喫茶店には僕の特等席があったりする。そして学校帰りのメニューはいつも決まっている。
「ハニートーストとミルクティー」糖分を摂らせてもらう。
 この喫茶店「Huppertユペール」は、実は僕のバイト先。だから全メニュー廿パーセントオフ。そしてこの時間帯は僕のような学生はあまり見かけず、其れなりに静か。お得で、落ち付ける場所である此処は、僕のもう一つの部屋みたいな場所だった。それでちょいちょいっと働いて、コーヒーや紅茶の美味しい入れ方が分かって、お金がもらえるのだから此処は、うん、もう、素晴らしい場所だ。
「都々木君、ちょっとシフトの事で……いいかな?」
「はい、何ですか?」僕の注文の品を持ってくると共に話しかけてきたのは店長のルル・ユペール。フランスとイギリスのハーフだが生まれてすぐからこの国で育った為、ネイティブな日本語を話す。女優のように綺麗な女性。五歳になる娘さんがいるが、その子も人形のような可愛さだ。
「ごめんねプライベートな時に。明日、都々木君休みだったけど、学校終わってから出てくれないかな? 明日出るはずだった重阪へいさかさんが大学の行事か何かで急に出られなくなっちゃったのよ。どうかな?」
「えっとですねぇ……」明日って言ったら……うをぉ……お嬢に呼ばれてるじゃないか……断ったらただじゃ済まないよな……。
「う〜ん……学校終わってすぐは無理ですねぇ……僕も部活動で……」
「あれ? 都々木君帰宅部じゃなかったけ?」
「はい、そうなんですけど、和琴楽部からお琴弾いてくれって言われてて……」
「都々木君お琴弾けるの? 凄いわねぇ」
「えへへへへ……ああ、だから、出られるとしてもそれが終わってからになっちゃいますね。でもいつ終わるか分かりませんし……」店長はうーんと唸り、首を擡げる。そんな仕草も、綺麗だった。
「仕方ないわよねぇ……じゃあ終わったら来てくれるかな? 実際忙しくなるのは夜からだし」
「分かりました。あまりに遅くなるようでしたら連絡します」
「えぇ。お願いね。あ、その代り明後日のシフトも変更して夕方からでいいわ」店長は笑顔になった。僕はお茶の知識やお金だけでなく、この店長の笑顔の為にも働いている。
 ……後、この喫茶店は夜七時以降喫茶店ではなくお酒が飲める小料理屋になる。フランス料理のエッセンスが入った創作料理店。味もさることながら、店長目当ての常連客は多い。
 ちなみに娘さんは旦那さんが寝かしつけたり、仕事で都合が悪い時はこの店に顔を出してたりする。この喫茶店の二階から上が店長の家なのだ。その場合、娘さんの相手をすることも仕事に含まれる。
 ……それにしても店長のハニートーストとフォートナムメイソンは格別に美味しい。僕もそれなりに自身はあるけど、どうやれば此処まで美味しさを引き出せるものか。なんて考えている間に宿題は終わってしまった。

 実家ではなく三階建の寮の二階で一人暮らし。間にバイト先があるくらいだから学園に隣接しているわけではなく、少し離れている。その分下校時など買い物をし易いので都合がいい。それと少し離れているぐらいの方が「早く起きないと間に合わない」というほどよい緊張感があって丁度いいのだ。
 日常。僕は洗濯物を取り込み、夕飯の支度をしていく。今日は鶏ムネ肉が安かったので唐揚げでもしようかと思う。ご飯を仕掛け、唐揚げの下準備。まだ食べるには早いので明日の準備でもしようかと思う。
 制服は脱いだ時に消臭・殺菌スプレーをして干してある。この部屋は日差しと風通しが完璧で、窓を開けるだけで爽やかな風が入り、梅雨時も僕の実家のようにカビが繁殖することなどない。
 ……そうだ。お琴の爪を買いに行かないと。この辺りに和楽器店なんてあっただろうか? とりあえず商店街に行ってみよう。ていうか爪っていくらぐらいするんだっけ?

 やばい。これは今月何も買えない……と思ったら、象牙でなくプラスチックの爪もあり、ほぼ十分の一ぐらいの値段であった。
 だけどプラスチックのってどうなんだろ? 昔やってた時は象牙だったが、プラスチックでちゃんとした音が出るのか? お嬢の事だからプラスチックなんて持って行ったら……色々言われそうだな……。
 あ、象牙でも安いのがあるな。形は昔から使ってる生田流でいい。
 ちょっと待て、白以外の爪があるじゃないか。面白いぞこれ。でも鼈甲か……割れやすいとかじゃないよな?
「お兄さん爪をお探し?」迷っていると結構お歳の店主が話しかけてきた。蓄えた髭が立派な、渋いおじいちゃんだった。
「ん、はい。財布と相談中で。この鼈甲って、割れやすい事はないんですか?」
「象牙にくらべたらねぇ。でも柔らかい分優しい音が出るから女性には人気だな。後見た目で買っていくお客もいる」
「う〜ん優しい音色かぁ……十七弦弾くんでその点では象牙の方がいいですかねぇ」
「そうだな。男性が使う分にはこっちのがいいだろ」
「じゃあこの、生田流の方の、並象牙のでお願いします」
「はい。爪輪は持ってるかい?」
「いえ、それも一緒に。この牛皮のを、お願いします」
 たぶん、これからもお世話になるんだろうな、ここ。ポイントカードも作っておこう。

 寮に戻るとスーツ姿でスキンヘッドの黒人が一人僕の部屋の扉の前で立っていた。左耳には無線のイヤホンマイク。右腰には少し盛り上がりがある。でも、下手に警戒する事もない。その人とは顔見知りで、右腰のは警棒なのを知っている。彼は、お嬢のお付きの一人だ。何かお嬢から伝言でもあるのだろう。
「何ですか?」周りの住民の眼にはどう映っているのだろうか? 同じ学園の者なら彼の事を見たことがあったとしても、彼がどう僕と関わりがあるのかまでは分からないだろう。
「……」彼は何処からかストレートタイプの携帯電話を取り出し、僕に差し出してきた。
「僕に?」彼はなにも反応しなかったが、僕がそれを受け取ると、役目を終えた彼は僕を後にし、エクステリアを派手にドレスアップしたニューMINIでビュンッと帰って行った。
 どういうことだ? 何故僕にケイタイを? まぁいいか。僕は夕飯の時間まで暇をつぶすことにした。
 和楽器店の方で琴爪はくっつけてもらった。ケースは代わりになるものがあるので今回は買わず。久しぶりに付けてみる。するとやっていた頃の情景が浮かび上がり、僕は透明な十三弦を巾から五あたりまででサラリンと弾き、音色が脳内を駆け巡る。それと同時に、別の音色が聴覚に飛び込んできた。
   ピリリリリリリッ ピリリリリリリッ
 さっきお嬢のお付きに渡されたケイタイだ。液晶画面を見ると、電話番号が表示されている。これは多分、お嬢だ。
「もしもし、都々木です」
『ちゃんと受け取ってくれたようね。貴方がケイタイを持ってないなんて仰るからわざわざお渡ししてあげたの。感謝なさい』
「はい、ありがとうございます。明日なのですが、何時に終わるとかって分かりますか?」
『……なぁに? 嫌なのかしら?』
「いえいえいえいえそう言う訳じゃないです。急にバイトの方が入っちゃいまして、終わり次第来てほしいって言われまして」
『喫茶店だったかしら?』
「えぇ。夜七時からは創作料理店になるんです。その時間ぐらいから忙しくなるので、入らないとダメで……」
『あらそう。さぁ、貴方次第じゃあないかしら』
「分かりました。僕なりに頑張ります」
『それではごきげんよう』
「あ、あ、はい、失礼します」確認だけだったようだ。急に切られた。でも『ごきげんよう』と言われるだけましだ。急にブチッと切られるよりは。
 お嬢は、いつからか僕に構う様になってきた。何か僕に変化があったとすれば、髪の毛をさっぱりさせたことぐらいか。それまでは僕などはただのクラスメイト。いや、それ以下であったのかも、認識されていたのかさえ疑わしい。しかし今では何かにつけて絡んでくる。手下共を連れて。クラスに男子はもう一人いるがそいつは休み時間になるとすぐ何処かへいなくなる。見た目悪くなく、愛想さえ良ければモテそうなビジュアルなのに、そんなことはせず他クラスの男子達と集って仲良くやっているようだ。ハーレム状態なのは僕だけらしい。お昼はランチでなくリンチなのだけど。
 ただ、手下達が僕にするような暴力をお嬢は嫌う。お嬢は言葉、態度、権力など、直接的でないモノで屈伏させるのがお好みなのだ。たまに手を出す事もあるが。
 暴力なら、何も気にしなければ。その後のお嬢の冷やかな、僕に対するだけの視線をご褒美だと思えば古典的条件付けによって僕は勃起する。考えても見てくれ。全員ではないが別に悪くないルックスの女子生徒複数人に裸にされて、勃起させられているのだ。お金払ってもなかなか出来るものじゃない。あっちもそれなりに満足で、他に向けられる暴力を全て僕が解消している。なかなか、何かしらかに貢献しているじゃないか。僕もそれなりにお得な気がして、円満じゃないか。
 お嬢の態度だって悪くない。あれは全てヂのモノだ。あれは天然モノだ。あの態度で何が悪い。全てを見下して何が悪い。彼女はそうするように教えられてきた。それは僕達が「相手に優しくするように」とか、「困っている人を見た時は助けるように」とか小さい頃から教えてこられて、それが善意とかなんだとかの問題ではなく「そうするように言われている」というだけで、お嬢が人を屈伏することの何処に非難される部分などあろうか。
 今日はゆったりと、ベッドで沈んでいく。ズブズブと沼に嵌っていくように、それは二度と元に戻れないのではないかと思えるほどの脱力感。「うわぁ、全て終われ」と思ったが、ユペール店長の顔が出てきてその考えは塗りつぶされた。そしてそこにお嬢がやってきて、災害用の柄の長いハンマーで全てを壊していく。手下たちも、教師も、クラスメイトも、部活メンバーも、お付きも、店長も、僕も……ぶん殴り、脳漿を飛び散らせ、自分は血まみれになり、全てを無表情の上でぶち壊していく。僕にとってお嬢とは、そんな存在らしかった。


 

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